みんなで星を見上げれば...

星を見ることを忘れてしまった人々の行く先に希望はあるのだろうか?新たな希望の地を求めて旅立ちの準備をすることにしました。よろしかったらお付き合いのほどよろしくお願いします。

ぱしふぃく家の人々 ~永遠の6分38秒~

第一次接触

第1回 事の始まり

ぱしふぃく家は総勢550人の大家族である。多くは関東圏に住むが、日本全国に広く分散している。
総代 村真野(むらまや)家 頭主 定男(さだお)翁を除きく六家に分かれ、それらすべてに係わる執事、メイドの総数は220人余に及ぶ。日本一の大家族である。

六分家の内訳は、

姫井(ひめい)   家 当主 栄二朗(えいじろう)
大尾(おおび)   家 当主 信彌(しんや)    
的川(まとかわ)  家 当主 酒夫(しゃけお)
高楊(たかやなぎ)家 当主 雄一(ゆういち)
桃井(ももい)    家 当主 隆(たかし)
富士田(ふじた)  家 当主 良雄大翁(よしおおおおきな、大翁は最高齢の100歳)

さらに各家の取りまとめ、世俗との交流をスムーズの行うための役職的分家として
綿部(わたべ)家 当主 潤一(じゅんいち)がある。

また、ぱしふぃく家は七家とは別にその成り立ちから大きく主家、従家、傍家の3つに分かれている。
主家は5世代以上、従家は4~1世代、傍家は新世代の家族である。
ひとたび何かあれば一同が瞬時に集まり、その結束力は他に例を見ないほど強靭である。

今年2009年7月22日、実に46年ぶりに全家族が結集することになった。
総代は、ぱしふぃく家において絶対的な信頼と人望を持つ「村真野翁」その人である。
おん年85歳、病を患い現在は車イスの生活を余儀なくされているが、頭脳は明晰で人柄は温かく温情に富み、その声は溌剌としており、瞳の輝きは好奇心に満ちた少年のごとくである。

およそ1年前、総代は一人の人物を呼び出しこう切り出した。
「意志井君、私もこのような状態になって余命幾ばくかも知れぬ。せめてあの世に旅立つ前にもう一度、皆既日食を見たい。もう一度あれを見ないうちは死ねない。私は船旅が好きだ。私財を投げ打って日本に4艘しかない2万トン級の客船のうちのひとつに我が一族の名を冠してチャーター便を出す事にした。君がなんとかこの船を誘導して皆既日食を皆に見せてもらえないだろうか?聞くところによると君は日食に関しては日本で最高のコマンダーであり、その経験の基づく成功率も相当なものだと聞いておる。この年寄りの最後の願いを聞いてはもらえないだろうか?」

「いえ、私ごときには荷が重過ぎます。察するに総代は、ぱしふぃく家の七家3系列すべてにその機会をお与えになるつもりでございましょう。違いますか?」

「できればそうしたが、こればかりはそれぞれの事情もあり、各家にゆだねるしかない。しかし、全員が集まれなくてもすべての責任は私は負うつもりだ。君は持てる知識と経験を活かしてくれればそれで良い。結果については私が全責任を持とう。これが成功すれば私はもう何も思い残す事はない。違約金(ツアーが催行できなかったときに船会社に支払うお金で1億とも2億と言われている)などとやかく言うな。大船に乗った気でいれば良い。」

しばらく考え込んでから意志井はその口を開いた。

「わかりました。そこまでおっしゃるのならお引き受けしましょう。但し、私の人生におきましてもかつてない最大級の550人分のプレッシャーであります。日頃から私を支えてくれている私の家族やこれまで苦難を共にしてきた友人、また今ままでこうゆう機会にめぐり合えずそのチャンスを望んでも得られなかった知人にその場所をお与えくださらないでしょうか?もし、それがかなわぬなら、私はこのお話をお受けする訳には行きません。」
意志井の胸には、遂にかなえられなかった彼の両親に日食を見てもらいたかったいう思いが去来していた。
「それと日食当日には太陽にすぐそばに金星が見えるはずです。船名は「びーなす」と名付けてはいかがでしょうか?」
総代は2つ返事でそれらを了解してくれた。

引き受けてはみたものの意志井は「三塘湖の悲劇」として語り継がれている昨年の出来事が頭から離れなかった。毎年8月の第一金曜日は例年、長野県富士見村で3日に渡って原村星祭りが盛大に行われるのであるが、2008年は違っていた。開催15年目にして初めて開催日を1週間遅らせたのである(ちなみに今年は第一金曜が7日なのでお間違えなきよう)。理由は主要スタッフが全て日食観測に出かけてしまうためであった。場所は中国、空港からろくに舗装もされていない道を延々とバスに乗る過酷な行程でウイグル地区まで辿り着いた。外国人は一箇所に集められ、四方を警備兵に囲まれて身動きが出来ない。その中に意志井はいた。

皆既前まではおおむね晴れており、なんら問題もなかった。ところが皆既が始まる正にその瞬間、雲が太陽を覆い隠したのである。皮肉にも皆既が終わってからようやくその雲は逃げ去った。一同は呆然としたまま立ち尽くすしかなかった。それまで成功率100%を誇っていたKeiさん、初めて日食ツアーに参加したアズールさん、島と日食をこよなく愛するマサさん、みな、しばらくは言葉を発するすることさえできなかった。そして、その記憶は今日まで一日として忘れた事はなかった。晴天率、雲量、風、周囲の環境、これまでの何年分もの記録の統計を取り、すべてに最も確率の高い観測場所を吟味しての結果だった。まさに人事を尽くしたが天命はこなかったのである。

あれからまだ1年も経っていない。生々しい記憶は意志井の胸にも暗い影を落としている。
「言い訳になるが、あの時は逃げ場がなかった。今回は多少選択の余地が残されている。その可能性に掛けるしかない。」
こよなく日食を愛し、できる限り多くの人に実際の日食を体感して欲しいと願う意志井の信条とも一致する今回の総代の依頼。その全てを受け入れ、あまりの大任に軽い<目眩>すら覚えたが自らを鼓舞するがごとく、その一歩を踏み出したのである。
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